【故障診断事例】Porsche 911 (992.1) エンジン始動しない / アイドリングストップ後再始動できない (P051200)

【はじめに】
本記事では、Porsche 911 (992型前期) で発生したDTC P051200 の診断事例を通じて、スターターリレー不良を測定値からどのように判断したかを実際の診断手順に沿って解説する。


【この記事で分かること】
・Porsche 911 (992.1)の正常時のスターターリレーの作動、各電圧
・故障部位別のDTCの内容、DTC検出ロジック


【診断対象車両】
メーカー:ポルシェ (Porsche)
車種:911 Carrera 4 GTS cabriolet (992型前期カブリオレ)
年式:2023年
エンジン型式:DKK
走行距離:5,000km


【症状概要】
お客様の訴え:アイドリングストップ後再始動せず、一度イグニッションをオフにして再始動を試みたがクランキングしなかった。時間をおいて何度か繰り返すとエンジンがかかった。
現車確認内容:入庫時は再現性がなく不具合を確認できなかった。


【入力故障コード(DTC)】
P051200 スターター用のリレー 1/2 電気的故障


【診断条件・再現確認】
992型911のスターターリレーは2個装着されており同時に作動する。
入庫時は不具合の再現性がなかったので、リアシート後方のトリム下にあるリレーボードが見えるようにした状態で現象確認を続ける。
今回はカブリオレモデルのためリアシート後方のトリムの下にはロールオーバープロテクション(横転時上方向に安全装置が飛び出す機構)があり、その後方にリレーボードが配置されている。
(クーペモデルはトリムのすぐ裏にリレーボードが見える)
そのためロールオーバープロテクションの向こう側、リレーボードの上部のトリム類を取り外してリレーボードが見える状態にし診断を進める。

現象確認を続けたところ不具合が再現した。
その時2つのスターターリレーのうち上側のリレーは作動音がなく、下側のスターターリレーは作動音がある。
上記のことからスターターリレー系統に問題があることが考えられるため、スターターリレー系統を中心に診断を進める。


【点検・測定結果】
①正常時の電圧
正常作動時の2つのリレーの各端子電圧は下の図の通りである。
なお、今回診断した車両の配線色を一緒に記載したが、年式や仕様により異なる可能性があるため確認しながら作業を行う。

注:以下の端子番号は、本記事での説明用に便宜上付けた番号であり、メーカー資料上の端子番号とは異なる。

・スターターリレー2(上側のリレー)
1:赤/黒 12V (ターミナル30)
2:赤/白 リレーOFF時0V / ON時12V
3:茶/赤 リレーOFF時12V / リレーON時0V / リレー取外時3V
4:紫   12V (ターミナル15)

・スターターリレー1(下側のリレー)
5:赤/白 リレー2がOFF時0V / リレー2がON時12V
6:赤/黒 いずれかのリレーがOFF時0V / 両方のリレーがON時12V
7:紫   12V (ターミナル15)
8:青/灰 リレーOFF時12V / リレーON時0V / リレー取外時3V

・スターターリレー1 の 端子5 と、スターターリレー2 の 端子2 は赤/白のワイヤーハーネスで繋がっている(抵抗測定0Ω)
・出力端子はスターターリレー1の端子6で、スターターモーターとDMEに接続されている。

<故障コードの検出ロジックと追加資料>
最終的なスターターリレーの出力端子であるリレー1の6番端子はスターターに接続されており、またそのワイヤーハーネスは途中で分岐しDMEにも接続されている。
今回の測定結果からは、このDMEに接続されたワイヤーハーネスの電圧がフィードバック電圧として使用され、スターター作動指示時にこのフィードバック電圧が0Vの場合、今回のDTCが記録される仕組みと考えられる。
リレー1、リレー2どちらの出力電圧が不良であっても最終的に同じフィードバック電圧になるため「リレー 1/2 電気的故障」と表現されている。
ちなみに、リレーのコイル側回路において取り外し時に3Vの電圧があるのはDMEがコイル側制御線の電圧をモニターしており、断線を検出するための監視電圧と考えられる。
制御線はリレーそれぞれにあるため、コイル側回路はリレー1、リレー2それぞれの断線検出が可能である。
リレー1の制御側回路が断線またはリレーを取り外した際は
“P061500 スターター用リレー1、作動-電気的故障”
が入力する。
リレー2の制御側回路が断線またはリレーを取り外した際は
“P26E400 スターター用リレー2、作動-電気的故障”
が入力する。

②絞り込み
不具合が再現したところで、各端子電圧を測定する。
(車両バッテリーには充電器が取り付けられている状態での測定値)

・スターターリレー2
1:赤/黒 13.9V
2:赤/白 リレーOFF時0V / ON時0V (作動音無)
3:茶/赤 リレーOFF時13.9V / リレーON時0V / リレー取外時3.49V
4:紫   13.9V (ターミナル15)

・スターターリレー1
5:赤/白 リレー2がOFF時0V / リレー2がON時0V (作動音有)
6:赤/黒 いずれかのリレーがOFF時0V / 両方のリレーがON時0V
7:紫   13.9V (ターミナル15)
8:青/灰 リレーOFF時13.9V / リレーON時0V / リレー取外時3.49V

上記より、少なくともリレー2の制御側には正常作動時と同様の電圧が確認でき、リレー2の接点側回路の入り口にはターミナル30の電圧がしっかりと届いていることがわかる。
しかしリレー2がONになっているはずの時リレー2の作動音がなく、接点側回路の出口は0Vで、出力電圧が確認できなかった。
リレー2の接点側回路の出口はリレー1の接点側入り口に直結しているため、リレー2の接点側出口から出力電圧がなければリレー1の接点側入り口は0Vになる。
したがってリレー1が正常に作動していたとしても、リレー2からの出力電圧がなければ最終的なリレー1の出力電圧が0Vとなるため、スターターは作動できない。

③診断判断
スターターリレー2が作動せず、スターターリレー1の出力電圧が0Vとなっていた。
また、スターターリレー2の制御側および接点側入力端子では、正常作動時と同様の電圧が確認できた。
最後にスターターリレー2が差し込まれている端子などに腐食や接圧不良がないか確認する。
リレー脱着時の端子接圧に問題はなく、腐食等もなし。
点検後復元した後は再び不具合の再現性がなくなった。
これは、脱着時の加振によってリレー内部の接点固着等が一時的に解除され、不具合が再現しなくなった可能性が考えられる。
以上の点検結果から、スターターリレー2内部の不良による作動不良と判断した。


【原因判明・対策内容】
原因:スターターリレー2内部不良による作動不良
今回は同一系統で同時作動するリレーであること、また再発防止も考慮し、予防交換としてスターターリレー1・2の2個とも交換した。


【作業後の確認結果】
再現確認:交換後の再現性なし
試運転結果:試乗点検中もアイドリングストップからの再始動性良好
DTC再入力なし


【まとめ・技術メモ】
今回はPorsche 911 (992型前期) で発生したDTC P051200 の診断事例を通じて、スターターリレー不良を測定値からどのように判断したかを実際の診断手順に沿って解説した。
各故障コードが入力する条件も記載したため、どの部位に不具合があるとどの故障コードが入力するのかわかっていると絞り込みが早くなり、よりスムーズな故障診断が可能なため参考にしていただければと思う。

<今回の診断ポイント>
・スターターが回らない場合、まず制御側の問題なのか、スターターモーター本体側の問題なのかを切り分ける必要がある。今回の車両では、スターターモーター側よりもリレー側の端子電圧を確認する方が容易だったため、まずリレー側から診断を進めた。その結果、スターターリレー2に異常を確認した。
・電源リレー系統の不具合の場合、作動音や端子電圧などを確認し、コイル側回路に原因があるのか、接点側回路に原因があるのかを絞り込む。
今回の場合は個別の故障コードも設定されているため絞り込みに有効である。
・リレーの不具合は、脱着や加振によって一時的に解消し、再現しなくなる可能性がある。
そのため、脱着や加振を行う前に、可能な限り端子電圧などを測定し、故障発生時の状態を記録しておく。

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