【はじめに】
本記事では、ポルシェ カイエン (9YA)で発生したDTC B14FF29 (030039) / B122D29 (030082)の診断事例を通じて、リアドアロックの信号を測定し、どのように故障原因を絞り込んで見込み修理の判断に至ったかを、実際の診断手順に沿って解説する。
【この記事で分かること】
・電気式チャイルドロックを含むリアドアロックの各作動と正常時の信号波形
・ドアロック信号の点検にオシロスコープが適している理由
・電気式チャイルドロック故障時のケース別異常波形
【診断対象車両】
メーカー:ポルシェ (Porsche)
車種:カイエン (Cayenne / 9YA)
年式:2023年
車両型式:3BA-E3P1
エンジン型式:DCU
走行距離:19,000km
【症状概要】
お客様の訴え:チャイルドロックエラーが表示される時がある。
現車確認内容:入庫時メーター上には異常警告表示はなくチャイルドロックはリアドア左右共に正常に作動している。

【入力故障コード(DTC)】
<運転席リアドア>
B14FF29 (診断機によっては030039):セントラルロッキングユニット、あてはまらない信号
B122D29 (診断機によっては030082):チャイルドプル-フモ-タ-、あてはまらない信号
ともにパッシブ(過去)にて入力
【診断条件・再現確認】
入庫時に不具合の再現性がなかったため、ドアトリムを取り外しスイッチ類だけを接続し、波形計測が可能な状態で再現テストを繰り返す。
セントラルロックとチャイルドロックの正常な作動を確認しておくと、まずリモコンキーのロックボタン1回操作のセーフロック(デッドロック)、ロックボタン2回操作のシングルロック、アンロックボタン操作のアンロックがある。
今回の車両ではセーフロック時は外側・内側のどちらからもドアを開けられない。
シングルロックでは外側からは開けられないが、内側からは開けられる。
また、シングルロック時には純正セキュリティシステムの一部機能がオフになる。
そして今回メインで診断するチャイルドロックだが、従来の機械式チャイルドロックと異なり運転席にあるウインドーロックボタンと連動して電気的に作動するようになっている。
今回の車両では、運転席のウインドーロックボタンから後席側の操作を制限でき、後席のパワーウインドーなどが操作できなくなる。
また、電気式チャイルドロックもこの操作系統から作動し、チャイルドロック作動時にはリアドアを内側から開けられなくなる。

写真:電気式チャイルドロック装着車のウインドーロックボタン(写真中赤LED点灯ボタン)


【点検・測定結果】
①初期確認
現在不具合は不再現であるが、作動電圧や出力波形に乱れや電圧異常などが無いか確認しておく。
故障コードを記憶していない助手席側を正常側として、リアドアロックの信号を基準に比較する。
この時、診断する側のドアロックのコネクターはまだ抜かないこと。
コネクターピンの接圧不良や接触不良が原因だった場合コネクターの脱着により不具合が発生しなくなる恐れがあるためである。
これは今回に限らず故障診断では基本的なことで、コネクターや部品の脱着は脱着前に点検できることをすべて終わらせてから行うことが基本である。
なお、電気式チャイルドロック付リアドアロックのコネクターピンの内容は以下の通りである。
(※以下のピン配列・信号内容は今回の車両で確認したものです。年式、仕様、部品番号などにより異なる可能性があるため、実車の配線図・整備資料を優先する)
10Pin Aコネクター
A1_共用モーター接続
A2_セントラルロックモーター
A3_セーフロックステータス
A4_ドアコンタクトロータリースイッチ
A5_空き
A6_ターミナル31(アース)
A7_パワーチャイルドロック
A8_チャイルドロックステータス
A9_セーフロックモーター
A10_空き
(3Pin Bコネクターがある場合はイージークローザー用)

《ワンポイント》
ドアロックへの出力電圧は0V/12Vであっても、非常に素早くECUからの出力が終わるためサーキットテスターでは数値がうまく追従表示できず、出力電圧が正しく表示されない。
ドアロックのように短時間の出力や時系列で変化する信号を確認する場合、オシロスコープが非常に有効である。
下の二つの動画はセントラルロックの同じ出力電圧をサーキットテスター、オシロスコープでそれぞれ計測して比較したものである。
サーキットテスターでは捉えにくい短時間の出力も、オシロスコープでは波形として確認できる。
₊/A1
-/A2
ドアロック(セーフロック)、アンロック時の信号波形
(ロック時一瞬-12V、アンロック時一瞬₊12V)
₊/A1
-/A9
セーフロック、シングルロック時の信号波形
(セーフロックロック時一瞬-12V、シングルロック時一瞬₊12V、アンロック時も一瞬₊12V)
また、フィードバックの信号電圧が一定電圧のものであっても、操作に対して時系列で確認できる点も優位だ。
さらに今回のチャイルドロックのフィードバック信号は時間的に変化する波形信号であるため、信号の状態を確認するにはオシロスコープが適している。
正常側チャイルドロックの正常作動時の各波形を紹介しておく。
今回、故障コードを記憶している運転席リアドアも不具合が不再現の時は正常な波形と同じ波形が見られた。
₊/A7
-/A8
チャイルドロック作動、非作動の信号波形
(チャイルドロック作動時₊12V一定、非作動時動画のような矩形波出力)
なおこの非作動時の矩形波出力もサーキットテスターでは矩形波を平均化した低い電圧として表示する場合があり、波形信号であることを判断しにくい。
下の写真は同じ出力電圧をオシロスコープ、サーキットテスターにてそれぞれ測定したものの比較である。
オシロスコープの波形画面の②の区間をサーキットテスターで計測した場合、矩形波を平均化した低い電圧が表示されていることがわかる。



②絞り込み
これまで波形計測などを行いながら現象確認を続けているが、まだ不具合は再現していない。
再現性があまりなく、また不具合発生時も継続しない場合、不具合が発生した時どれだけ多くの情報を取れるかがカギとなる。
正常側のドアロック回路について、コネクター端子を抜いて擬似的に断線状態を作るなどして、不具合別の故障コードや波形の違いなどを計測しておく。
(※実施する際は、車両やメーカーの診断手順を確認し、端子・部品を損傷させない方法で行う)
コネクターを抜くと下記故障コードが入力する
(コネクター抜き取りのみでまだ操作はしない)
“B14FF29:チャイルドプルーフモーターあてはまらない信号”
“B122D29:セントラルロッキングユニットあてはまらない信号”
コネクター抜き取り状態でウインドーロックボタンにより
電気式チャイルドロックを操作しようとすると下記故障コードが入力する
“B14FF13:チャイルドプルーフモーター、オープン回路”
“B122B13:セントラルロッキングモーター、オープン回路”
“B14FF29:チャイルドプルーフモーターあてはまらない信号”
“B122D29:セントラルロッキングユニットあてはまらない信号”

コネクター接続状態で8番ピンのみを抜いた時は下記故障コードが入力する
“B14FF29:チャイルドプルーフモーターあてはまらない信号”
出力波形は12V一定の部分が無くなっている

コネクター接続状態で7番ピンのみを抜いた時は下記故障コードが入力する
“B14FF13:チャイルドプルーフモーター、オープン回路”
“B14FF29:チャイルドプルーフモーターあてはまらない信号”
出力波形は一定で変化がなく写真の波形が見られる
③再現確認と診断判断
不具合別の波形などを確認したので、今回診断する運転席側リアドアロックの信号を配線接続状態で計測できるように準備し、現象確認を続ける。
連続で操作するだけでなく、時間を空けたりしつつ時間の許す限り現象確認を行った。
しかし残念ながらお客様のご希望納期までに不具合は発生しなかった。
これまでの点検内容を説明の上、ワイヤーハーネスの加振やコネクターの脱着でも再現しなかったこと、電圧の変動や波形の乱れも確認されなかったことから、見込みであることを前提にドアロック本体の交換をご提案。
【推定原因・対策内容】
推定原因:右リアドアロック本体不良
交換部品や整備作業内容:上記の点検から、可能性としてはドアロック本体とドアECUの2つが残った。
追加の再現確認でも不具合を直接確認できなかったため、確定診断には至らなかった。
そこで、これまでの同型車の診断経験や故障傾向、部品構成、交換作業の内容などを総合的に判断し、今回はドアロック本体から交換する見込み修理を提案した。
ご理解いただいた上でドアロック本体を交換し、様子を見ていただくことになった。
【作業後の確認結果】
その後、お客様から再発のご連絡はなく、ドアロック本体交換後も不具合は発生していない。
現時点では交換後の再発がないことから、今回の交換作業により症状が改善したものと考えている。
ただし、入庫時に不具合を再現できていないため、ドアロック本体の内部不良を実測によって直接確認したものではない。
【まとめ・技術メモ】
今回は、ポルシェ カイエン (9YA)で発生したDTC B14FF29 (030039) / B122D29 (030082)の診断事例を通じて、リアドアロック不良を測定値からどのように判断したかを実際の診断手順に沿って解説した。
この電気式チャイルドロックはポルシェ 971 パナメーラにも採用されている。
またポルシェと同グループで同じセグメントの
ランボルギーニ ウルス (Lamborghini Urus)
ベントレー ベンテイガ (Bentley Bentayga)
なども同じ電気式チャイルドロックを備えている仕様もあるため、これらのモデルで同じ故障表示を診断する際は参考にして頂ければと思う。
ただし、年式や国仕様などにより信号やピン配列などが異なる場合があるため、あくまで参考とし、実車の配線図・部品番号・整備資料を確認した上で、実際の信号や電圧を測定しながら診断を進める必要がある。
<今回の診断ポイント>
・波形信号だけでなく、12V/0Vの制御であっても出力時間が非常に短い信号はサーキットテスターでは捉えにくいため、オシロスコープによる確認が有効である。
・不具合が発生していない場合は不具合が発生した時にどの波形や電圧を捉えたいかをはっきりさせておき、事前に計測する準備をして現象確認を続けること。
・不具合の発生頻度が少なく再現性がない場合は、できる限り考えうる再現テストをしたことと、見込みであることをしっかりとご説明の上、部品交換をご提案し交換後の様子見をお願いする場合もある。この際は出庫後のフォロー電話などを忘れずに行うこと。


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