【はじめに】
本記事では、ポルシェカイエン(9YA)で発生したDTC P227900の診断事例を通じて、インテークマニホールドへの二次エアリークを測定値からどのように判断したかを実際の診断手順に沿って解説する。
【この記事で分かること】
・インテークマニホールドへの二次エアリークによる測定値の変化
・ポルシェV8ツインターボエンジンにおけるミスファイアの変わった出方
・ブローバイガスセパレーターとチェックバルブの働きと不良時の様子
【診断対象車両】
メーカー:ポルシェ (Porsche)
車種:カイエン GTS (Cayenne / 9YA)
年式:2021年
車両型式:3BA-E3M40
エンジン型式:DCU
走行距離:60,000km
【症状概要】
お客様の訴え:加速不良、アイドリング不安定、エンジン振動
現車確認内容:不具合は常時再現できる。メーターに「エンジン出力減少(黄色)」と「スタート/ストップ故障(白色)」の故障メッセージが表示されている。


【入力故障コード(DTC)】
P030000 ミスファイア検出
P030500 シリンダ5 ミスファイア
P030600 シリンダ6 ミスファイア
P030700 シリンダ7 ミスファイア
P030800 シリンダ8 ミスファイア
P227900 スロットルバルブ下流の漏れ バンク1
全て現在故障で入力
【診断条件・再現確認】
不具合は走行しなくても現場で常時再現している。
アイドリングは不安定で振動しており、レーシングしても回転上昇がスムーズでない。
しかしそのまま高回転に持っていくと振動は少なくなり不調を感じにくい。
このことからスロットル開度が少ない(インテークマニホールド負圧が大きい)ほうがエンジン不調が起きやすいと推測。
【点検・測定結果】
①初期確認
まず故障コードを見て気が付くことは、ミスファイアを検出しているバンクと、スロットルバルブ下流の漏れを検出しているバンクが一致していない。
ミスファイアを検出しているのは5~8番気筒でバンク2側にランダムミスファイアが発生していることになる。
しかし、スロットルバルブ下流の漏れはバンク1側で検出されている。
これらのどちらを主として診断を進めるかによって大きな誤診をするリスクがある。
ここでミスファイアの故障コードについて振り返ってみよう。
ポルシェ(Volkswagen系)のミスファイア検出はエンジンスピードセンサー(クランク角センサー)の回転ムラを検出することで失火と判断している。
これは直接気筒内の失火を検出しているわけではない。
(ここでは割愛するが気筒内の燃焼をスパークプラグにて直接モニターするものもあり、ダイハツやフェラーリなどが採用している)
あくまで、「何かしらの要因によりクランク回転速度に不規則なムラが発生している」ことを意味しているに留まる。
加えて今発生している不具合の出方は、先述の通りスロットル開度が少ない(インテークマニホールド負圧が大きい)ほうがエンジン不調が起きやすいと推測される。
上記の理由から今回は主として「P227900 スロットルバルブ下流の漏れ、バンク1」の診断を進める。
この故障コードは「スロットルバルブ下流の漏れ」を示すが、実際には漏れ箇所そのものを特定する故障コードではない。
ライブデータやエンジン構造を踏まえた切り分けが必要となる。
②絞り込み
診断機の測定値(ライブデータ)より、現在の空燃比の状態を確認する。
測定項目は
・触媒上流のO2センサー バンク1 ラムダ値
・触媒上流のO2センサー バンク2 ラムダ値
・インテークマニホールド圧力(規定値)
・インテークマニホールド圧力 バンク1 (実測値)
・インテークマニホールド圧力 バンク2 (実測値)
λ(ラムダ)はA/Fの状態を表す数値で単位はなく、λ=1が理論空燃比である。
1よりも大きければA/Fはリーン、1よりも小さければA/Fはリッチだ。
今回の車両は故障コードを現在故障で検出している間はλ(ラムダ)が2.000で固着してしまうため、故障コードを消去後すぐに測定値画面に戻り空燃比(A/F)を確認する。
するとλ(ラムダ)は1よりも大きくなっていき、その時エンジン振動がある。
アイドリング中バンク1のインテークマニホールド圧力が目標値に比べ実測値が高い(大気圧に近い)。
さらにバンク2側の5~8番気筒の失火カウンターの上昇も確認できる。
1度エンジンを停止し、イグニッションONの状態で再度インテークマニホールド圧力を確認すると、バンク1、2ともに大気圧を表示するため、センサーは正常と考えられる。
これらの測定値から、バンク1吸気系統で二次エアを吸い込み、リーン状態になっていると判断した。
インテークマニホールドにはスロットルバルブが直接取り付けられており、インテークマニホールドから先はシリンダーヘッドの吸気ポートへ接続されている。
インテークマニホールドに二次エアが混入する経路は各ガスケット、インテークマニホールド本体の破損、そしてブローバイガスのパイプなどがある。
<ブローバイガス通路の構造>
・ブローバイガスパイプ
樹脂製でブローバイオイルセパレーターを出たあとインテークマニホールドに接続される
・ブローバイガスオイルセパレーター
シリンダーヘッドカバーに直接取り付けられており、インテークマニホールド圧力とプレッシャーレギュレーティングバルブ(PCV膜)によりシリンダーヘッドカバー内のブローバイガスをインテークマニホールドまたはターボチャージャーのコンプレッサー上流側に分配する。

ブローバイガスパイプから二次エアを吸っているとすれば、要因としてブローバイガスパイプ自体の破損、ガスケットの不良、PCV膜の破れ、チェックバルブ不良などが考えられる。
③確証
ある程度要因が絞り込まれ、大きく分けて
・インテークマニホールド自体の二次エア吸い
・ブローバイガス通路からの二次エア吸い
上記の2系統の不具合に絞られた。
各ガスケット類を含むインテークマニホールド自体の二次エア吸いを点検するには工数がかかるため、まずはブローバイガス通路系統をチェックする。
切り分け方法としてインテークマニホールドに接続されているブローバイガスパイプをブローバイオイルセパレーター側から取り外し通路に蓋をする。
この状態でA/Fを点検したところλ(ラムダ)は1に近く良好になり、インテークマニホールド圧力の目標値と実測値に差異が無くなった。

この切り分けにより、インテークマニホールド自体の二次エア吸いと、ブローバイガスパイプ本体の二次エア吸いの可能性はなくなり、オイルセパレーター以降のブローバイガス通路系統に不具合は絞られた。
残る構成部品はオイルセパレーター本体と、オイルセパレーターからターボチャージャーに繋がるブローバイパイプのみだ。
オイルセパレーターからターボチャージャーにはインテークマニホールド圧力が正圧(加給圧)のときにのみブローバイガスが送られるため、パイプにはチェックバルブ(逆止弁)が取り付けられている。
チェックバルブの側面には空気の通る方向を示す矢印が書かれている。
これが働いている場合は、ターボチャージャー側からオイルセパレーターに向かっては空気は流れない。
しかしこの車両はアイドリング中バンク1側のターボチャージャー上流のインテークパイプを手で遮ると吸引力を感じる。バンク2側は感じない。

つまりターボチャージャー上流にインテークマニホールド負圧が働いていると言える。
オイルセパレーターからターボチャージャー間のパイプを取り外し、チェックバルブの状態を確認する。ターボチャージャー側は変わった形状のいじり止めビスのようなもので取り付けられているが締め付けはさほど強くないため、たがね等でたたけば簡単に緩めることができる。

直接内部を点検したところ、チェックバルブの膜が破損していることを確認した。
このチェックバルブの破損により常に通気してしまうため、アイドリング中インテークマニホールド負圧によりこのタービン上流のブローバイガス通路から二次エアーがリークしてしまい、今回の不具合が発生していたと断定。


【追加検証】
不具合の原因は判明したが、一つ確認しておきたいことがあった。
それは、失火検出が逆バンクすべての気筒にあったことだ。
今回の不具合により完全に失火していない状態で、爆発燃焼のタイミング遅れなどによりクランク回転に不規則なムラが発生し、それを検出した結果逆バンクの失火を誤って検出していたと仮定する。
ではこのブローバイガスパイプの不具合が逆バンクに発生したなら、同じように不具合のない方のバンクの失火を検出するのか?ということである。
左右の部品形状が違うためスワップテストはできない。
そのため少々無理やりではあるが下記の方法で検証実験してみる。

バンク1側の不良チェックバルブ付きパイプとバンク2側のオイルセパレーターをホースで接続。
逆に不具合のないバンク2側のパイプとバンク1側のオイルセパレーターを同じくホースで接続。
これで疑似的ではあるがバンク2側に不良チェックバルブが取り付けられた状態になった。
これで測定値を点検する。
すると興味深い結果となった。
<アイドリング時の測定値内容>
・バンク2側のインテークマニホールド圧力が規定値よりも高い
・バンク2側のラムダが1から2に向かって上昇
・1~4番気筒の失火カウンターが上昇
<検出故障コード (DTC) >
P030000 ミスファイア検出
P030100 シリンダ1 ミスファイア
P030200 シリンダ2 ミスファイア
P030300 シリンダ3 ミスファイア
P030400 シリンダ4 ミスファイア
P2ADF00 スロットルバルブ下流の漏れ バンク2
全て現在故障で入力
故障コード、測定値の異常個所、失火検出気筒のすべてが左右バンクで入れ替わった。
このエンジンのこの不具合の出方の場合に限ってではあるが、不具合バンクと逆側の失火カウンターが上昇する様子が分かった。
【原因判明・対策内容】
原因:バンク1側ターボチャージャー上流からブローバイガスオイルセパレーター間のパイプ不良(チェックバルブ不良)
該当部品の交換
【作業後の確認結果】
交換後インテークマニホールド圧力やA/Fの値が正常になり、失火検出や故障コードの入力はなくなった。
試乗点検を実施し、エンジン振動もなくなり、回転の上昇もスムーズで加速感は良好であることを確認。
よって不具合は改善した。
【まとめ・技術メモ】
今回はポルシェカイエンの故障コード”P227900″の診断を事例に、測定値などを利用して二次エアリーク箇所の特定するプロセスを紹介した。
今回の診断では、故障コードだけで判断せず、測定値(空燃比、インテークマニホールド圧力)エンジン構造や故障コードの検出ロジックなどに対する知識を組み合わせることで、二次エアリーク箇所を効率よく特定することができた。
測定値と故障コードを鵜呑みにせず、検出ロジックやエンジン構造まで含めて考えることが故障診断の精度を大きく左右する。
<今回の診断ポイント>
今回は変わった失火検出のパターンが紹介できたが、すべてのエンジンに対してこのような発生事例を記憶していくことは不可能である。
今回のケースのように、その故障コードはお客様の申し出と整合性があるか、自身で確認した不具合と整合性はあるか、故障コードの検出ロジックとともに考慮し、診断を進めることが今回の重要ポイントであった。


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