【故障診断事例】Porsche 911 (991.2) P1432 / 00A004 ウォーターポンプシャッター固着によるオーバーヒート

【はじめに】
本記事では、Porsche 911 (991型後期)で発生したDTC P1432 / 00A004の診断事例を通じて、オーバーヒートの原因をどのように絞り込み、判断したかを実際の診断手順に沿って解説する。


【この記事で分かること】
・991型911のバキュームシステムの総合的な点検方法
・「オーバーヒート+P1432」から診断対象を絞り込む方法
・ウォーターポンプシャッターの作動原理と実際の作動状態
・ウォーターポンプ側からVSV不良を切り分ける点検方法


【診断対象車両】
メーカー:ポルシェ (Porsche)
車種:911 (991型後期/991.2)
年式:2019年
車両型式:ABA-991J1
エンジン型式:DCK
走行距離:39,000km


【症状概要】
お客様の訴え:走行中メーター上に「モーター温度上昇 停止してください」と警告表示が出て、左後方から煙が上がった。
現車確認内容:レッカーにて入庫。入庫時は冷間状態で水温表示は正しく外気温と同等。メーター上に「冷却水要充填、モーター温度要監視」と表示されている。


【入力故障コード(DTC)】
<DME>
P1432(00EACF) バキューム微細な漏れ
<インストルメントクラスター>
00A004 エンジン水温高すぎる
00A046 クーラントレベル警告


【診断条件・再現確認】
まずは実際の冷却水量を確認。
実際にMINレベル以下のため補水し、冷却水量の警告表示が消えることを確認の上診断に進む。
下回りには冷却水リザーブタンクから溢れた冷却水の跡のみで漏れた様子はない。
記憶された故障コードやお客様のご用命内容、リザーブタンク周辺の冷却水跡から、過去に冷却系統の異常な温度上昇が発生し、冷却水がリザーブタンクから排出された可能性が高いと判断した。

写真:リザーブタンクから溢れた冷却水跡
左側ターボチャージャー、触媒付近に跡が残る

またエンジンの故障コード
“P1432(00EACF) バキューム微細な漏れ”
からいずれかのバキュームシステム負圧を利用したコンポーネントの故障が疑われるが、その中にはウォーターポンプが含まれる。

ポルシェやフォルクスワーゲングループの一部エンジンで採用されているウォーターポンプには、バキュームシステムによって作動するシャッターを備えたものがある。
このウォーターポンプシャッターは早期暖機のために作動し、シャッター作動中はウォーターポンプの羽根をシャッターで覆うことで、ウォーターポンプによる冷却水の循環を抑制する。
このため、車種によってはバキュームシステム系統の故障を検出した際に、メーター上へ「冷却システム故障」などの警告を表示する場合がある。

動画:ウォーターポンプシャッターの作動の様子
(負圧が与えられたときにシャッターが作動する)

ウォーターポンプシャッターへの負圧がホース破れなどにより与えられない場合は、少なくともウォーターポンプシャッターが作動しないことによるオーバーヒートにはつながらない。
しかしこの負圧を与えるかを制御するVSV(ソレノイドバルブ)が電気的故障または機械的故障により開固着した場合は、シャッターが作動したままになり、オーバーヒートしてしまう要因になり得る。
そのためエンジンを始動し再現テストを行う前にバキュームシステム系統の点検を実施する。


【点検・測定結果】
①初期確認
まずはバキュームシステムの総合的な良否判定を行う。
診断機を用いて点検する場合は、診断機のECUリストからDMEを選択し、システムテストよりバキュームテストの項目を実施する。
この場合は診断機の画面に表示される手順に従い進めればバキュームシステムの良否判定が可能である。
診断機を用いずハンドバキュームポンプ(マイティバック)による点検を実施する場合は、エンジン側部にある下記写真赤矢印部分のゴムキャップを外し、そこにハンドバキュームポンプを接続し負圧保持点検が可能である。

ただし上記の二つの点検方法はいずれもシステム全体の良否判定しかできず、否判定であった場合、個別のコンポーネントの点検をハンドバキュームポンプにより実施する必要がある。
今回の車両はバキュームシステムの点検はシステム全体として規定の負圧を保持できず、否判定となった。

②絞り込み
バキュームシステムは否判定であったが、お客様のご用命はオーバーヒートのため、まずはバキュームシステムコンポーネントでオーバーヒート要因になり得る箇所を点検する。
(もしオーバーヒート要因になり得る箇所にバキュームシステムの不具合がなかった場合は今回のご用命とは切り分けて、別系統の不具合として点検する必要がある。)
冷却システムにバキュームシステムを用いているコンポーネントはシャッター付きウォーターポンプやクーラントシャットオフバルブなどがあるが、オーバーヒートに直結する箇所としてまずウォーターポンプを点検する。
ウォーターポンプに接続されたバキュームホースを取り外すと取り付け部のパイプ内部に冷却水の漏れ跡が見られた。また接続されたホース内も濡れており冷却水がバキュームホース接続部より漏れていることが確認できる。
バキュームホース内に冷却水が侵入すると、バキュームホースは作動時負圧になるため、バキュームホース接続部より漏れた冷却水はこの負圧により吸い上げられてしまいVSVまで到達してしまう。
VSV内部まで冷却水が到達してしまうと、バルブの作動不良や固着を引き起こす場合がある。

③確証
ウォーターポンプのバキュームホース接続部に冷却水漏れが見られたことから、VSVが開固着しシャッターが閉じたままになっている可能性が極めて高くなった。
しかしVSVはエンジン上部に取り付けられており車上での点検は困難なため、ここからはエンジンを始動し診断機の測定値を見ながら診断を進める。
診断機による測定の項目は
・冷却水温度
・切り替え式クーラントポンプ用切り替えバルブ
を測定する。
エンジンを始動すると冷間時から暖気途中のフェーズは、”切り替え式クーラントポンプ用切り替えバルブ”の測定値は作動状態を表示している。
早期暖機のためにウォーターポンプの羽をシャッターにより遮って、冷却水の循環を止めている状態だ。
暖機が進み切り替え式クーラントポンプ用切り替えバルブの測定値は非作動状態の表示に変化する。
これで正常であればシャッターは作動が終了し冷却水の循環が始まり、100℃付近で冷却水温度の上昇が止まる。(メーター上は90℃表示で安定するが実温度との差があり、メーター表示だけでは冷却水温の詳細な変化を判断できないため、診断時はDMEの実測値を確認する)
しかしここからも冷却水の温度上昇は続き、冷却水温は110℃を超え、さらに上昇するとメーター上に「モーター温度上昇 停止してください」と警告表示が出てお客様のご指摘の不具合が再現した状態となった。
ここでウォーターポンプに接続されたバキュームホースを取り外すと、負圧が抜けシューっという音が出て、冷却水温度の測定値は急激に減少し100℃付近に落ち着いた。
この結果から、ウォーターポンプシャッターへの負圧を解除することで冷却水循環が回復し、水温が低下したと考えられる。
現在も切り替え式クーラントポンプ用切り替えバルブの測定値は非作動状態を示しているにもかかわらず、取り外したバキュームホースには負圧が発生していた。

本来この状態ではバキュームホース側に負圧が供給されるべきではないため、VSVが閉じるべき状態でも負圧を遮断できていないと判断した。
その結果、ウォーターポンプのシャッターが作動した状態が継続し、冷却水の循環が抑制されたことでオーバーヒートに至ったと判断した。


【原因判明・対策内容】
原因:ウォーターポンプ内部からバキュームホース接続部への冷却水侵入。これによりVSVが開固着し、ウォーターポンプシャッターが作動した状態となっていた。
不具合発生メカニズム:ウォーターポンプシャッターが作動したままになり冷却水の循環が抑制されたことで、冷却水温度が異常上昇しオーバーヒートに至った。
作業内容:ウォーターポンプ交換、VSV交換
バキュームホース側への冷却水侵入がウォーターポンプ側に起因しているため、VSVのみを交換しても再発する可能性がある。そのためウォーターポンプとVSVを同時に交換した。
ウォーターポンプの交換はエンジンの脱着を必要としないが、VSVはエンジン上部に取り付けられており、交換に

は少々手間がかかる。
エンジンをハイミッションジャッキで保持し、エンジンマウントを切り離し下げられるだけ下げてエンジン上部に作業スペースを確保する。VSVは写真のように数個のVSVが連結したブロックになっており、ASSYでの部品供給となる。


【作業後の確認結果】
各部品を交換後再びバキュームシステムの点検を実施。
バキュームシステムに異常がないことを確認の上、冷却水を充填しエア抜きを実施。
完全暖機後も冷却水温が安定していることが確認できたら試乗点検をしてDTCの再入力やオーバーヒートしないことを確認し作業完了。


【まとめ・技術メモ】
今回はPorsche 911 (991型後期)で発生したDTC P1432の診断事例を通じて、バキュームシステムの総合点検から不具合箇所を絞り込む方法、シャッター付きウォーターポンプの作動原理、VSVの点検方法について解説した。
今回の診断では、P1432というDTCだけを見てバキューム漏れ箇所を探したのではない。
お客様のご用命がオーバーヒートであることから、バキュームシステムの中でも冷却系統に関係するコンポーネントを優先して点検した。P1432とオーバーヒートという2つの情報を組み合わせることで、ウォーターポンプシャッター系統を早い段階で診断対象として絞り込むことができた。
ちなみに今回はVSVの開固着によってバキュームシステムが本来の制御状態を維持できず、結果としてシステム全体の負圧保持試験で「微細な漏れ」と判定され、P1432が入力されていたが、
例えば今回の診断対象とは異なるが、バキュームホースの破損などによってシステムの漏れ量が大きくなった場合には、別の故障コード
“P1433(00EAD0) バキュームシステム多量の漏れ”
を検出する。

<今回の診断ポイント>
・991型911のバキュームシステムの総合的な点検方法は診断機を用いる方法とハンドバキュームポンプを用いる方法の二種類があるが、いずれもバキュームシステム全体の総合的な点検しかできない。
・お客様のご用命内容と故障コードからオーバーヒートの推定原因の絞り込みを行う。
・ウォーターポンプシャッターなど、冷却系統でバキュームを利用するコンポーネントを点検する場合は、バキュームホース側への冷却水侵入がないか確認する。冷却水の侵入が確認された場合は、VSVまで冷却水が到達していないか、VSVの作動状態を確認する。

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