【はじめに】
本記事では、Jeep Cherokee (KL32)で発生したDTC U1203 / U1440の診断事例を通じて、PTU ECUの通信不良を診断機による通信状態や測定値、アクチュエーターテストなどからどのように絞り込んだかを、実際の診断手順に沿って解説する。
【この記事で分かること】
・PTUのECUが通信途絶している際の症状
・通信途絶の判断材料となる測定値
・実際にトランスファケースを取り外した作業の様子
・トランスファケース内部の作動原理
【診断対象車両】
メーカー:ジープ (Jeep)
車種:チェロキー (Cherokee / KL32)
年式:2014年
車両型式:ABA-KL32L
エンジン型式:S
走行距離:67,000km
【症状概要】
お客様の訴え:メーターに”4WDシステム利用不可、要点検”と表示され、4WDへの切り替えができない。
現車確認内容:不具合は常時再現性がある。お客様の訴え通りメーターに故障表示があり、4WDへの切り替えは常時できない。2WDでの走行は前進、後退ともに可能。

【入力故障コード(DTC)】
使用診断機:AUTEL MaxiSys Elite
<DTCM (ドライブトレインコントロールモジュール)>
現在:U1203 PTU DTCMとの通信途絶
<EPB (電動パーキングブレーキ)>
現在:U0403 不適切なデータをTケースから受け取った
<PCM (パワートレインコントロールモジュール)>
U1440 不適切なトランスファケース比高を受信
※PTU:Power Transfer Unit
※DTCM:Drivetrain Control Module
【診断条件・再現確認】
不具合は常時再現中である。
各コントロールユニットに記憶された故障コードから、PTU(パワートランスファユニット)に組み込まれたECUと他のECUが通信できていないと推測される。
しかしこのKL32型チェロキーのPTU ECUはトランスファ本体の上面に取り付けられており、車体とのクリアランスがなく車上点検は不可能と言っていい。
ECUのコネクターにアクセスできず直接信号を点検することは容易でない。
従ってまずは測定値などから絞り込みを進める。

写真:PTU ECUの取付位置
【点検・測定結果】
①初期確認
AUTEL MaxiSys Eliteでは、オールスキャン時に装備されていないECUや応答なしのECUが、スキャン後のECU一覧から表示されない場合がある。

写真:AUTEL Maxis Elite のオートスキャン ECUリスト
応答なしのECUはリストに表示されない
オールスキャン中は診断機から目を離していることが多いため、意外に忘れがちなポイントだ。
スキャン後のリストに項目がないのでそのECUの存在自体に気づけないときもある。
そのためオールスキャン中は読み取り前のECUリストからどのECUが消えていくか確認する必要がある。
(AUTEL Maxis Ultraなどのトポロジー表示が可能な診断機の場合はリストのように消えずに応答なしのECUは色分けされ残るため視覚的に点検しやすい)

写真:AUTEL Maxis Ultra のCANトポロジー図
色によりDTC有、DTC無、応答なしに分類される
今回のように通信不具合が疑われるECUが定まっている場合は、オールスキャンではなくECU選択画面から該当のECUを選択すると、通信できていない場合このような画面になる。

今回はPTU ECUを選択し進むとコントロールユニットとの通信ができていないことがわかる。
また本来ならDTCM(ドライブトレインコントロールモジュール)の項目からアクチュエーターテストにてPTU位置を選択すると任意でトランスファの位置制御が可能だがそれも実行できない。
またPTU ECUと通信できないため、通常であれば取得できるPTU関連の測定値も読み取ることができない。

②絞り込み
コントロールユニットが通信できない理由は
・コントロールユニットの電源系の問題
・CANなどの通信回路の問題
・コントロールユニット自体の不具合
などが挙げられる。
前述の通りチェロキーはトランスファケースを脱着しないとECUのコネクターにアクセスできないため電圧の測定や波形の計測なども現段階ではできない。
電源ヒューズの点検は現段階でも可能な点検のため先に実施する。
エンジンルーム内車両左側にあるリレー&ヒューズボックス内より
・PowerTakeoffUnit 20A
・DrivetrainControlModule/PowerTakeoffUnit-IfEquipped/BrakeSystemModule 10A
・PowerTrain 20A
などPTU ECUの電源と成り得るヒューズに断線がないか確認する。
(表記やアンペア数は年式により異なる可能性があるため現物を見て判断が必要)
今回はどのヒューズも断線はなかった。
ただし、ヒューズが正常であることはECUへの電源供給が正常であることを直接証明する判断材料には成り得ない。
あとは実際にトランスファケースを取り外して、ECU側の電源、アース、CAN回路の点検が必要だ。
トランスファケースを取り外して点検してからの部品注文になると、リフト上で部品待ちになってしまい部品到着までリフトが一機使えなくなってしまう。
このタイミングでPTU ECUの中古品が流通していたため、事前に入手した。
そのため今回は現段階ではECU不良は見込みになるが、手配したECUが到着してから診断を進めることにした。
このような進め方については、故障診断の模範ではないが、実際の現場においては現場の混み具合や中古品の流通の有無や価格、返品の可否などから判断しコストとリスクのバランスで判断するとよい。
③確証
手配した中古のPTU ECUが到着した時点でいよいよ診断再開。
実際にトランスファケースの取り外しにかかる。
右のドライブシャフトとプロペラシャフト、パワーステアリングギアボックスやメンバーなどを脱着するとトランスファケースは取り外すことができる。
エンジンマウントやステアリングギヤボックスなどは切り離して空中で自由にしておくと取り外しきらなくても問題ない。
なかなか外せる角度は絶妙ではあるが、トランスファケース単体での脱着は可能だ。



トランスファケースが外れたら、ECUのスワップテストを実施。
今回は前もって中古ECUを用意してあるため、試験的に用意したECUを接続し診断機にて点検する。
今回使用した中古PTU ECUでは、接続後にイモビライザーアダプテーションやコーディングを必要とせず、PTU ECUとの通信が復帰し、オールスキャンにてECUリストにPTUが出現。
またDTCMの項目から”アクチュエーターテスト”にて”PTU位置”を選択すると任意でトランスファの位置制御が可能。

測定値についてもPTUに関する項目を読み取ることができるようになった。
通信不能だったPTU ECUを交換したことで複数の診断結果が同時に正常化したため、PTU ECU内部の通信系統不良と判断した。

【原因判明・対策内容】
原因:PTU ECU不良
整備作業内容:ECUの交換とトランスファオイルの交換
(この車両では車上状態で通常のトランスファオイル交換を行うためのリフィルプラグが確認できないため、今回PTUを脱着した際にトランスファオイルの交換も実施した)
【補足資料】
本来は電気的測定の後に部品手配がセオリーだ。
今回は車上でPTU ECUのコネクターにアクセスできず電源電圧の測定やCAN波形の計測ができる状態ではなかった。そのため通常の診断手順とは異なり、電源ヒューズの確認、診断機による通信状態の確認、PTU関連の測定値が表示できないことなどから不具合箇所を絞り込み、最終的にPTU ECUのスワップテストによってECU不良の確証を得た。
交換作業時にオシロスコープを使えなかったので残念ながら通信波形は取れなかったが、それ以外のピン電圧やピン配列はサーキットテスターにて調べておいたのでここに記しておく。
同じ故障診断をされる方の参考になればと思う。

配線右から
1:赤/黄緑 電源 12V
2:赤/青 電源 12V
3:黒 アース ボディと0Ω
4:灰 CAN? サーキットテスター上2.5V
5:灰/白 CAN? サーキットテスター上2.5V
このトランスファケースの制御はこのように行われている。
PTU ECUの裏面からダイレクトに駆動される2本のシフトフォークが左右に動くことによりトランスファの切り替えが行われる構造になっている。
フォーク駆動部とECU部の間は細いゴムのガスケットのみで区切られている。
フォーク駆動用のウォームギアなどが納められた部分にはギヤオイルが使用されているため、構造上、シール部の状態によってはECU側へのオイル侵入による不具合を考慮する必要がある。
またPTU内部にはギヤなどの機械部品も存在しているため、内部構造の機械的故障についても考慮する必要がある。

【作業後の確認結果】
車両復元後、故障コードを消去し試乗点検を実施。
4WD各レンジへの切り替えや走行に問題がないことを確認。
また故障コードの再入力等がないことを確認し修理完了。
【まとめ・技術メモ】
今回はJeep Cherokee (KL)の故障診断事例を通じてECUの通信途絶診断について解説した。
セオリーはECUコネクター部にて通信波形や電源電圧などを測定するべきだが、車両によっては今回のように難しい場合もある。
電源ヒューズや診断機による測定値などを利用してできるだけの点検をした上で、リフトや納期の都合によっては見込みを付けて今回のような進め方をするのもひとつの方法だ。
もちろん、これは通常の電気診断を省略してよいという意味ではない。
電源、アース、通信回路を測定可能であれば、まず測定によって切り分けるのが基本である。
<今回の診断ポイント>
・AUTELにて診断を進める場合(他にもトポロジー表示のない診断機も同様)は、ECUリストに無いECUが装備無しなのか応答なしなのかしっかり判別する必要がある。
・通信不良が疑われる場合は、対象のECUそのものだけではなく他のECUに記録された通信系の故障コードも確認する。複数のECUに同じECUとの通信異常を記憶している場合は、特定ECUの通信途絶の可能性をより強く疑うことができる。
・ECUとの通信途絶を確認した場合でも、直ちにECU本体の故障と判断せず、電源、アース、通信回路などの外部要因を切り分けた上でECU不良を判断する。


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