【はじめに】
本記事では、Porsche Panamera (970型)で発生したDTC P1023/ P053Fの診断事例を通じて、高圧側燃圧不良をどのような手法で測定、判断したかを実際の診断手順に沿って解説する。
【この記事で分かること】
・燃料圧力(以下燃圧)を低圧側、高圧側で分けてそれぞれの良否判定を行い切り分ける方法
・高圧側燃圧不良時の測定項目
・高圧燃料ポンプ(ハイプレッシャーフューエルポンプ)不良を確定するまでの診断手順
【診断対象車両】
メーカー:ポルシェ (Porsche)
車種:パナメーラ 4(Panamera 4 / 970)
年式:2014年
車両型式:ABA-970CWA
エンジン型式:CWA
走行距離:172,000km
【症状概要】
お客様の訴え:エンジンがかかりにくく、始動後のアイドリングが不安定
現車確認内容:不具合は常時再現性がある。エンジン始動時にクランキング時間が長いが(初爆まで約10秒程度)アクセル操作の補助などは必要としない。
エンジン始動後のアイドリングは不安定で振動している。
アクセルを一気に開けると吹け上がりは非常に悪いが、ゆっくりと開けていくと回転上昇は可能。

【入力故障コード(DTC)】
<DME>
P1023 始動時のフュ-エルプレッシャ-が低すぎる/燃料が少なすぎる
P053F 冷間始動時のフュ-エル高圧(下限値に満たない)
【診断条件・再現確認】
入庫時の確認でエンジンの始動性が悪く、またアクセルを一気に開けるともたつくがゆっくり開けると吹け上がることから燃料の不足やA/Fの狂いなどが考えられる。
更に入力している故障コードから燃圧に不具合があることが考えられるため、今回は燃料の圧力を中心に診断を進める。

【点検・測定結果】
①初期確認
まずは診断機を用いて測定値を点検する。
高圧側燃圧を測定する場合の測定項目は
・高圧フューエルプレッシャー規定値
・高圧フューエルプレッシャー実測値
・フローコントロールバルブデューティ
を測定する。
《ワンポイント》診断機に表示される低圧燃圧に注意
フォルクスワーゲングループなどでは診断機上は低圧側燃圧の測定値はあるが、この測定値が「高圧側燃圧から逆算して表示しているだけで、燃圧センサーが高圧側にしか装着されていない」というパターンが存在する。
もちろん高圧側、低圧側それぞれに燃圧センサーを備えているパターンもあるため、正確に低圧側燃圧センサーの存在を確認するには、正規の資料で確認するか、資料が確認できない場合は高圧側燃圧センサーのコネクターを抜いてみて低圧側燃圧の測定値の変化を見るなどする方法があるが、今回の点検においてその確認は必要ない。
インテークマニホールドに燃料を噴霧する従来のものではなく、気筒内に直接燃料を噴射する「直噴エンジン」において、先述のように低圧側燃圧センサーが存在しないパターンはあっても、高圧側の圧力をフィードバック制御するために高圧側燃圧センサーを備える構成が一般的である。
イグニッションオン(エンジンはかけない)など、高圧燃料ポンプによる加圧が行われていない状態では、高圧側燃圧センサー位置に低圧側の燃料圧力が伝わる構造であれば、その値から低圧側の供給状態を確認できる。
この時車種にもよるが燃圧はおおよそ3~6bar程度が一般的で、フューエルポンプはドア開閉時、イグニッションON後の一定時間、始動時、アイドリング中などに作動する。低圧側燃料ポンプにコントロールユニットを備えたものは、燃圧は一定ではなく、その時必要な燃圧を発生するよう燃料ポンプをPWM制御する。
予備知識的なところだが、燃圧を点検する際には上記の内容を頭の隅に覚えておいていただければと思う。
少し話がそれてしまったが今回の診断の話に戻そう。
主に高圧側燃圧の測定値に着目しているが、エンジン始動前にイグニッションON時の高圧側燃圧も確認しておく。
・高圧フューエルプレッシャー実測値:5623.45hPa
今回使用した診断機の測定値単位は「hPa」となっている。
1hPa=0.001barのため、約5.6barの燃圧が検出されていることが分かる。
この状態では高圧燃料ポンプによる加圧が行われていないため、主に低圧側から高圧燃料ポンプ入口までの燃圧を確認していることになる。
今回はこの時点で低圧側燃圧に大きな異常がないことを確認し、高圧側の診断へ進んだ。
ここからはエンジンを始動し高圧側燃圧を確認していく。
エンジン始動後アイドリング中の測定値は
・高圧フューエルプレッシャー規定値:79102.08hPa
・高圧フューエルプレッシャー実測値:5455.32hPa
・フローコントロールバルブデューティ:28.125%
P1023/P053Fが入力されていることに加え、長いクランキング、不安定なアイドリング、急加速時の吹け上がり不良が発生している。
そして実測値でも高圧側燃圧が規定値に対して大幅に不足していることから、今回のエンジン不調は高圧側燃圧不足との整合性が取れる。
②絞り込み
次に高圧側燃圧が不足している要因を診断していく。
先ほどのイグニッションONでの燃圧点検で、低圧側燃圧を確認できているため高圧燃料ポンプまで燃料は来ているものと推測される。
そこから燃料を高圧に出来ない要因は
・高圧燃料ポンプ本体の機械的故障
・高圧燃料ポンプ駆動部の機械的損傷
・フローコントロールバルブの作動不良
・フローコントロールバルブ制御回路の電気的故障
などが挙げられる。
高圧燃料ポンプの各点検を行うには、やや手間がかかるが周辺部品を分解し高圧燃料ポンプが見える状態にする必要がある。
ワイパーカウル周辺、プレナムチャンバーなどを取り外す必要があり、プレナムチャンバーをヒーターホースが貫通しているためその部分も取り外す必要がある。
高圧燃料ポンプが見えたらまずはポンプ装着状態でフローコントロールバルブの波形を計測する準備をして、エンジンを始動し点検を行う。



《ワンポイント》
今回診断している高圧燃料ポンプのフローコントロールバルブはDMEによりPWM制御され、高圧燃料ポンプが発生する燃圧を調整している。
このフローコントロールバルブはノーマルオープンのものとノーマルクローズのものがある。つまり非通電時に燃圧が最小になるのか、最大になるのかということである。
これは高圧燃料ポンプのメーカーや世代により異なる。
今回の高圧燃料ポンプはコンチネンタル製でノーマルオープンタイプになっており、コネクターを切り離すと燃圧は最小になる。(つまり低圧側燃料圧力になる)
コネクター接続状態で波形が取れるように、高圧燃料ポンプとコネクターの間にテスト用ピンにて接続し、そこにオシロスコープを接続する。
エンジンを始動し波形を計測する。
本来はまず、可能な限りコネクターの脱着などはせずに不具合が出ている状態で波形を計測するのがセオリーだが、今回の高圧燃料ポンプは取り付け位置の問題でコネクター脱着無しにはオシロスコープの接続が難しかったため今回はやむなく上記の方法を取った。
幸いコネクター脱着後も不具合は継続して再現性があり、不具合発生中の波形計測ができた。
上の写真が計測したフローコントロールバルブの制御波形で、この時のフローコントロールバルブデューティの測定値は、おおよそ25%程度であった。
PWM波形のON時間は約25%であり、診断機のフローコントロールバルブデューティ約25%とも一致している。
このことから、少なくともDMEから出力されたPWM制御信号がフローコントロールバルブまで出力されていることが確認できた。


③確証
上記までで高圧燃料ポンプ不良と言いたいところだが、ここまでで確認できたのは、DMEからフローコントロールバルブへPWM制御信号が出力されていることまでしか証明できていない。
確認できる項目がまだ残っている。
それは、高圧燃料ポンプ駆動部の機械的損傷の確認だ。
高圧燃料ポンプの駆動部はカムシャフトの軸方向に連結する形で駆動されるものと、カムシャフトのカムにより垂直方向に取り付けられた高圧燃料ポンプを駆動するものがある。
今回の高圧燃料ポンプはエンジン後方に取り付けられ、カムシャフトの軸方向に連結されている。
高圧燃料ポンプを取り外し、カムシャフトとの連結部に損傷がないか、またポンプそのものはロックなどしていないかなどを確認する。
点検の結果高圧燃料ポンプ駆動部に異常は認められなかった。
よって残る可能性は、高圧燃料ポンプ本体の機械的な圧送不良、またはフローコントロールバルブ自体の作動不良となる。
今回の高圧燃料ポンプはフローコントロールバルブと一体のASSYで部品供給されるため、個別に切り分けて修理することはできない。
ここまでの点検結果から、高圧燃料ポンプASSYを不具合部品と判断した。

【原因判明・対策内容】
原因:高圧燃料ポンプ不良
整備作業内容:フローコントロールバルブ付きの高圧燃料ポンプASSYを交換
【作業後の確認結果】
高圧燃料ポンプ交換後車両を復元しエンジンを始動。
燃料ラインに燃料が行き渡ったあとは始動性が良い事と始動後のアイドリングに振動や不調が無いことを確認。
また診断機の測定値計測にて高圧側燃圧の目標値と実測値に差異がないこと、故障コードを記憶しないことを確認。
試乗点検にてドライバビリティに異常がないこと、試乗後にオイル漏れや燃料漏れの確認を行い、作業完了。
【まとめ・技術メモ】
今回はPorsche Panamera (970型)で発生したDTC P1023 / P053Fの診断事例を通じて、高圧側燃圧不良をどのような手法で測定、判断したかを実際の診断手順に沿って解説した。
エンジン始動性が悪い、アイドリングが不安定、急加速時のみのエンジン不調などから燃圧系不具合を想像する感覚と、それを測定値から客観的に見て整合性のあるデータを取ること。
そして系統を絞り込んだら全ての可能性について検証しひとつの答えを探し出す。
これはあらゆる故障診断において順当なプロセスと言る。
なお、今回お客様は不調を感じられすぐに搬送入庫されたため入力していなかったが、何度も再現テストをしたり、不調のままエンジンを暖気すると下記故障コードも入力することがある。
<DME>
P1031 フュ-エル圧力センサが始動時に固着
P1036 フュ-エル高圧が低すぎる
P12A1 フュ-エル圧力センサのエラ-
<今回の診断ポイント>
・燃圧系統の故障診断をする際はまず不具合が低圧側にあるのか、高圧側にあるのかを切り分ける。
・高圧側の燃圧が目標値に達しない場合は、高圧燃料ポンプ本体だけを疑うのではなく、低圧側からの燃料供給、ポンプ駆動部、フローコントロールバルブ、制御回路など、高圧を発生させるための各要素を順番に切り分ける。
ちなみに部品供給は高圧ポンプとフローコントロールバルブがASSY供給になるが、分解するとこのようになっている。



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