【燃料劣化】長期放置ガソリンによるフューエルポンプロック事例

【はじめに】
長期間動かしていなかった保管車両や放置車両では、燃料そのものが原因となってエンジン始動不能や燃料ポンプ故障を引き起こすことがある。
この記事では実際の修理事例を交えながら、長期放置ガソリンによる不具合について解説する。


【この記事で分かること】
・フューエルポンプロックや、エンジン不調の理由として見落としがちな「燃料不良」について
・燃料の「長期放置」とはどのくらいの時間か
・燃料は長期放置すると何故不良になるのか
・長期放置車を診断するときの考え方


【概要・前提知識】
ガソリンは腐る?
表題にあるようにエンジンの燃料であるガソリンと軽油は時間の経過とともに劣化し、不良になる。
整備現場では「ガソリンが腐る」という表現をすることが多いが、実際には酸化や軽質成分の揮発などによる燃料劣化である。

では「何が」「どの程度の期間で」「どうなるのか」
具体的には2~3か月で劣化が始まり、半年を目安に性能の低下(軽質成分の蒸発、酸化による変色と異臭、これらに伴ったワニスなどの沈殿物の生成)が始まる。

また軽油についてはタンク内の結露水と軽油の境目で、軽油に含まれる成分を養分にしバクテリアやカビなどの微生物が増殖し、その死骸や代謝物が黒いヘドロ状になりタンク底面に沈殿する。

しかしこれらの燃料劣化の速度は環境により大きく異なるため一様に「何か月で劣化する」、「何年で劣化する」とは表現できない。
夏の高温駐車場と冬場の寒い時期を比較した場合、暑いときのほうが寒いときの数倍の速さで劣化するといわれる。また、酸化についても燃料タンク内の燃料残量が少ないほうが酸化しやすい。
燃料タンクが樹脂か金属かによっても異なり、金属タンクの金属イオンが触媒となって酸化重合反応を大幅に促進させ劣化を早める原因になる。

キャブレターのフロート室などと比較すると自動車の燃料タンクは密閉されており燃料の入っている量も多いため不具合の発生はキャブレターに比べ燃料タンクのほうが遅い。
キャブレターのフロート室は「燃料量が少なく空気と接触する面積が大きい」ため数ヶ月で固着・目詰まりを起こす。
燃料タンク内は「大容量で半密閉」のため、不具合が発生するほどのスラッジや沈殿物・固形ガム質が本格化するには1年〜数年単位の放置が重なった場合が多い。


【現場で起こる問題】
この燃料劣化の問題は故障診断時忘れがちなポイントだ。
とくに整備経験が浅いと、この可能性を診断の候補に挙げられないケースも少なくない。
旧車や長期放置車両の整備を担当しなくても、古いバイクの整備などを通じで経験があれば別だが、劣化して不良になったガソリンの独特の酸っぱい臭気や色味などは経験がないと知ることは出来ず、教科書では学べない。
また、劣化していない燃料であっても誤給油による不具合というケースもあるため、普段からガソリン、軽油の色や臭いも知っておく必要がある。
車両の使用状況、総走行距離と年式から走行のペースなどにより、長期間同じ燃料がタンク内に入っているような車両を診断する場合には燃料不良も視野に入れなければならない。
また顧客から「数年前のガソリンはそのまま使えますか?」という相談を受けることもあるが、変色や異臭がある燃料は使用を避けるべきである。
このような質問を受けた場合も、技術的に正しいアドバイスを差し上げるためには知識が必要だ。


【解説】
燃料劣化による車両不具合は具体的に以下のようなものが挙げられる。
①引火性、着火性の低下によるランダムミスファイア、出力不足
②沈殿物による燃料ポンプのロックや抵抗大による電源ヒューズ切れ
③沈殿物によるフィルタの詰まり、燃圧の低下による加速不良
④沈殿物によりキャブレターのジェット詰まり、インジェクターのノズル詰まり、開固着等

また燃料劣化がなくてもガソリン、軽油の誤給油によるエンジン不調などもある(給油した量にもよるが、意外にエンジンはかかる車もある)

私は実際の現場で上記すべての不具合を経験したことがあるが、それくらいに燃料不良は珍しい話ではない。
具体的に一例を紹介する。


<具体例>

不具合内容:エンジンかからない(初爆しない)
メーカー:ポルシェ (Porsche)
車種:Boxter (986)
年式:2003年
走行距離:11,000km
入力故障コード(DTC):なし

・今まで2回燃料ポンプを交換している。
・今回も同様の症状でエンジンがかからない。
・診断の結果フューエルポンプコネクター部分まで作動電圧ありで燃圧なし。ポンプ作動音なし。
よってポンプ不良、交換。


フューエルポンプ交換の判断までのプロセスは至ってシンプルなものだ。
しかしこの診断で注目すべきはその背景で
・年式と走行距離
・燃料ポンプを同じ症状で過去2回交換済
というところだ。
この期間にこの走行距離のペースで燃料ポンプ不良が3回目というのは不自然だ。
ここで燃料の給油サイクルが著しく遅く、燃料タンク内に沈殿物がありそれがポンプ不良の原因では?と推定。
実際に燃料タンク内の様子を確認するため燃料タンクの蓋(センダーゲージ上面)を上げると不良ガソリン独特の臭気があり、内部のガソリンは茶色に変色している。またタンク底面に沈殿物が見られる。


ポンプの単体抵抗は1.14Ωで正常品とほぼ同等であり、内部リークや断線の様子はない。
つまり電気的故障ではなく、異物嚙みこみなどによる機械的ロックの疑いが強い。
上記より長期放置ガソリンの沈殿物による燃料ポンプロックと判断。
この事例ではポンプ交換に加えて古い燃料の抜き取り、タンク内部の清掃、センダーゲージの追加交換を実施した。


【注意点】
今回紹介した事例はポンプロックによる燃圧なしというハッキリとした症状で常時再現性があった。
このような場合は判断しやすいが、エンジンはかかるが調子が悪いなどの場合は判断が難しい。
その時燃料の質を疑うという知識の引き出しと、実際に臭気や色で判断する経験値が重要だ。
普段から燃料の色や臭いを意識し、いつもと違うところを常に五感で感じながら作業をすることが大切である。
また今回は紹介しなかったが、電動ポンプ診断時は電圧と抵抗の測定に留まらず電流値を点検することも有効だ。
モーターがロックした状態の電流は、自由回転できる状態の数倍~数十倍に達する。
(例:自由回転時の電流値が5A程度のもので、ロック時10~15A超など)
そのため作動時電源ヒューズが飛ぶという症状になる場合もある。


【まとめ・技術メモ】
近年は燃料品質の向上により以前ほど燃料劣化によるトラブルは減少しているが、旧車・低走行車・長期保管車では現在でも十分起こり得るため注意が必要である。
単に電圧値などでフューエルポンプ不良を判断し、話を進めてしまうと交換後再修理になってしまったり、見積もり後に真の原因は燃料にあることがわかりタンク内清掃の追加作業が必要となり、お客様への説明や了承に時間を要する場合もある。
なぜフューエルポンプ不良が発生したのか、今までどんな修理をしてきたのか、不具合発生時の詳しい様子や車の使用状況など様々な情報をもとに診断を進める必要がある。
そのセンスを養うには常に思考を巡らせ、常に五感を働かせて作業することが大切だ。

<今回のポイント>
・燃料は時間とともに劣化するということを常に忘れないこと
・何度も同じ部品が壊れる場合は真の原因が解決していない可能性を考えること
・燃料劣化は診断機では直接判定できないからこそ、車両の使用状況や燃料の状態まで含めて考えることが、正しい故障診断につながる

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