【診断対象車両】
メーカー:BMW
車種:M8 (F91)
年式:2020年
エンジン型式:S63B44B
走行距離:19,000km
【症状概要】
お客様の訴え:エンジン振動、エンジン警告灯点灯
現車確認内容:常時単気筒不具合によるエンジン振動と、エンジン警告灯点灯を確認

【入力故障コード(DTC)】
使用診断機:AUTEL MaxiSys Elite
入庫時のDME2に入力した故障コード
過去 144052 インジェクションシステム シリンダー7 制御 断線
現在 10031C インジェクションシステム シリンダー7 最小値学習 信号が正常でない
現在 100318 DME2 内部故障(最小量学習、インジェクター、シリンダー、同様の状態 信号の異常)
過去 140710 ミスファイア シリンダー7 検出されている
過去 140002 ミスファイア 複数シリンダー 始動動作後に有害な排出ガス
過去 140001 ミスファイア 複数シリンダー 燃料噴射が停止される
過去 120908 チャージ圧コントロール2 結果としてのスイッチオフ
過去 140210 ミスファイア シリンダー2 検出されている

【初期診断】
このV8ツインターボエンジン < S63B44B > は
・車両進行方向右側がバンク1で前から1番→4番気筒、制御はDME1が担当
・車両進行方向左側がバンク2で前から5番→8番気筒、制御はDME2が担当
入庫時の故障コードの内容より下記内容が想定される
・7番気筒で単気筒失火が発生している
・7番気筒のインジェクター学習値が閾値から逸脱した、またそれによる複数の故障コードの検出
・7番気筒の燃料噴射と、バンク2のチャージ圧コントロールはDME2の制御により停止した
入力故障コードが多く原因が特定困難なため一度故障コードを保存後消去。
試乗してエンジン警告灯が点灯した後再度故障コードを点検。
DME2に入力した故障コード
現在 14403E インジェクションシステム シリンダー7 制御 高電圧側の低電圧側へのショート
…なにやら入庫時とまた異なる故障コードが入力しているが、これを現在の不具合内容とし、
7番気筒のインジェクター系統に不具合があると判断し診断を進める。
補足だがこの故障コード電気的ショートの内容だが、故障コード消去直後のIG ONでは入力せず、エンジン始動後しばらくすると入力した。
一応診断を進める前にインジェクターの学習値をリセットし再学習を試してみたが不具合は解消しなかった。

【点検・測定結果】
7番気筒インジェクター系統を点検するために左バンクフューエルレール周辺を分解する。
エンジンECU(DME2)、冷却水リーザーブタンク周辺を脱着、ずらすなどしてインジェクターを点検できる状態にし、配線類の損傷がないかを点検。外観上の損傷はなし。


左バンク上部に取り付けられていた冷却水タンクからオーバーフローした冷却水がその下に流れ、左バンクのインジェクター付近に溜まり各インジェクターには冷却水の跡が多く見られた。
このことが不具合に関連しているかは不明。
次に7番気筒のインジェクターのコネクターを取り外し、車両側回路を試験的に断線、短絡させて入力する故障コードを確認する。
コネクターオープン(断線):144052 インジェクションシステム シリンダー7 制御 断線
コネクターショート(短絡):14403E インジェクションシステム シリンダー7 制御 高電圧側の低電圧側へのショート
この試験による故障コードは、IG ON直後に入力した。
また、断線による144052は入庫時の過去コードに記録されており、短絡による14403Eは故障コードのリセット後のエンジン始動後に入力していたコードだ。
上記のことから車両側回路に電気的不具合がある場合はIG ON直後に故障コードを検出すると仮定すれば、エンジン回転中インジェクターが作動中内部の不良によりランダムに断線または短絡が発生するのではないかと考えた。
左バンクのフューエルレールを取り外し、7番気筒と8番気筒のインジェクターを取り外す。
この二つのインジェクターと、別のBMW車両の高圧インジェクターを用意し単体抵抗を比較した。
7番気筒インジェクター:3.0Ω
8番気筒インジェクター:3.2Ω
他BMW車両インジェクター:2.4Ω


単体抵抗点検では特に断線、短絡などの異常は認められなかった。
そのため7番気筒と8番気筒のインジェクターを入れ替え(スワップテスト)し、車両を試乗可能な状態に復元。試乗点検したところエンジン警告灯が点灯し下記の故障コードがDME2に入力した。
現在 14403B インジェクションシステム シリンダー8 制御 高電圧側の低電圧側へのショート
このことからスワップテストにより不具合が7番気筒から8番気筒へ移行したため、7番気筒高圧インジェクター本体不良と判断。

【原因判明・対策内容】
原因:7番インジェクター本体不良
交換部品や整備作業内容:インジェクター本体を交換し、作業後診断機を用いて基本調整を実施。
従来のBMW高圧インジェクター交換時にはインジェクター本体に刻印された数値を診断機で入れる作業があるモデルが存在していたが今回のエンジンでは不要であった。
常用特別機能→インジェクター→学習値リセット→燃料システムの適応値をリセットする
リセット後診断機の指示に従い2分間のアイドリングを行い学習完了となる。


冷却水タンクからオーバーフローした冷却水は高圧インジェクター取り付け部に溜まってしまうことが気になっていたため、冷却水タンクの液量レベルはLowレベルとMAXレベルの中間位置に調整しておいた。
【まとめ・技術メモ】
このエンジンや故障に対する経験がなく試験、考察しながら診断を進めたため長い内容の記事になってしまったが、同じ系統の不具合に直面している方にできる限りの情報を提供するために、あえてスマートにはまとめずにすべてを記載することにした。
結果読みにくかったかもしれないが沢山の情報が共有できていれば、幸いである。
また全く経験や資料のない故障診断をする際に現車で手掛かりをつかんでいく様子も伝わればと思う。


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