【故障診断事例】Maserati Ghibli エアコン効かない (コントロールバルブ不良)

【診断対象車両】
メーカー:マセラティ(Maserati)
車種:ギブリ(Ghibli)
年式:2017年6月
車両型式:ABA-MG30AA
エンジン型式:M156C
走行距離:75,000km


【症状概要】
お客様の訴え:エアコンが効かないときがある
現車確認内容:現象再現性あり。エアコンが効かない時と効くときがある。効くときはしっかりと冷えるが効かないときは常温の風が出る。不具合が出るきっかけなどはなく突然効かなくなったり、突然効いたりする。ヒーターや吹き出し口制御に問題はない。


【入力故障コード(DTC)】
使用診断機:AUTEL MaxiSys Elite
入力コード:なし


【診断条件・再現確認】
不具合が出る時と出ないときのきっかけが不明確なためマニホールドゲージを接続したままで冷媒圧力の様子を見る。

基本的なエアコン診断条件は下記の通り。
・エンジン回転数:1,500rpm
・エアコン:MAX COOL(内気循環・風量最大)
上記の条件下で行った数値を基準とし、冷媒の正常圧力値の目安は下記の通り。
・低圧:0.15-0.25MPa (1.5-2.5kg/cm²)
・高圧:1.40-1.60MPa (14.3-16.3kg/cm²)
ただし、外気温度により数値は大きく異なる。
暑い時期は上記を参考にし、寒い時期は上記よりも全体に低くて問題ない。

この際診断機を接続しておき、エアコンの測定値(ライブデータ)も一緒に観察すべき項目がある。
それはコンプレッサーの制御値である。
従来のマグネットクラッチ制御のコンプレッサーは、エアコン診断時マグネットクラッチが締結状態という点検条件だったが、2010年ごろ以降の自動車には広く可変容量式のコンプレッサーが用いられている。その場合コンプレッサーの容量制御値(出力制御値)が最大になっているか確認する必要がある。
可変容量式コンプレッサーは制御値が最大でないと性能を正しく判断できないからだ。
また近年の車両では可変容量式コンプレッサーにマグネットクラッチも併用している車両もあるため、マグネットクラッチの有無でコンプレッサーが可変容量式であるか判断してはいけない。
一般的には可変容量式コンプレッサーには下の写真のようなコントロールバルブ(レギュレーティングバルブ)が取り付けられている。
このような部品が装着されているかと、診断機の測定値にコントロールバルブの制御値があるかで判断すると間違いがない。


【点検・測定結果】
メーカーや車両により項目名などは異なるが基本的にエアコンのECU測定値のなかで
・コンプレッサーデューティ比
・コンプレッサー制御値
…などの測定値を探す。
その数値が正しいか判断しかねる場合は温度制御を操作して制御値が変化するか確認する。

最大冷房の設定の状態でコンプレッサー出力が最大制御値になっていることを確認しながら不具合の発生を待つ。
点検時の外気温度は約27℃。

不具合が発生した際マニホールドゲージが示した指針は
・低圧:0.40MPa (4.0kg/cm²)
・高圧:0.85MPa (8.5kg/cm²)

また不具合は発生していない状態でのマニホールドゲージの測定値は
・低圧:0.20MPa (2.0kg/cm²)
・高圧:1.40MPa (14.0kg/cm²)

上記の測定結果より不具合が発生していない時の冷媒圧力は正常であり、不具合発生時の冷媒圧力は低圧が高く、高圧が低い。
一般的に低圧が高く、高圧が低い場合は、コンプレッサーの圧縮不良(内部リーク)が疑われる。
しかし今回の重要なポイントは「正常なときもある」という点だ。
ガスの不足やコンプレッサーの機械的内部不良の場合、基本的に不具合は常時再現する。
正常な可変容量式コンプレッサーの場合、出力制御値が高い場合コンプレッサー内のピストンストロークが大きくなり、出力制御値が低い場合コンプレッサー内のピストンストロークが小さくなる構造だ。
つまり出力制御値が低いときは、コンプレッサーの圧縮能力を意図的に下げているため、圧縮不良のような冷媒圧力になる。

今回のケースでは正常な時があるためコンプレッサー圧縮機構そのものの機械的破損はないと判断し、エアコンECUからの出力要求が高いにもかかわらずコンプレッサーの圧縮能力が低い=コンプレッサーが正しく制御されていない可能性がある。
ECUからの最大出力要求信号がコントロールバルブまで到達しているならば、正しく制御されない原因推定部分はピストンストロークを変化させる部分であり、コンプレッサーコントロールバルブ自体の不良や固着、コンプレッサー内部でコントロールバルブにより可変する機構のひっかかりなどの不具合が考えられる。
しかしそこからの絞り込みは困難である。
不具合再現中に衝撃を与えるなどして不具合が解消してもどの部分の引っ掛かりや固着がなくなったか判断できないし、コントロールバルブを取り外した状態で作動させることはできない。
また今回不具合は常時発生しないため各部品の単体点検を行っても今の状態が不具合発生中の状態かわからない以上良否判定ができない。
値段にもよるが、コンプレッサーそのものを交換したりオーバーホールに出す前に、まずレギュレーティングバルブを交換してから再点検を行うのが一番低コストで失敗のない選択である。


【推定原因判明・対策内容】
推定原因:コンプレッサーコントロールバルブの不良
対策内容:コントロールバルブ交換
今回はコントロールバルブ単体の部品供給があったためコントロールバルブの交換作業を実施。
左前ホイールハウス内から簡単にアクセスでき、コンプレッサーの取り外しなどは必要なかった。
バルブを固定しているスナップリングを取り外し、それなりに硬いがバルブを引き抜くだけで交換可能だった。


【作業後の確認結果】
再現確認:コントロールバルブ交換後エアコンガスを規定量充填し作動点検を行った。交換後は不具合の発生はなく常時作動良好となった。


【まとめ・技術メモ】
今回は可変容量コンプレッサー特有の故障診断、原因部品だったため記事にまとめた。
可変容量式コンプレッサーの作動の理解と測定値の判断、従来のエアコンシステムの冷媒圧力による診断など総合的な知識が必要なため好事例だった。
この事例ではコントロールバルブ単体の供給があったが、ASSY供給しかない車種もある。

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